・・・戦場のクリスマス・・・






時代はさかのぼる。第1次世界大戦のさなか、
のちに日本の偉大な宣教者となった故カンドウ神父は、
塹壕の中でクリスマスを迎えた・・・

近代戦の革命のような塹壕戦のおかげで、
イギリス軍もドイツ軍もにっちもさっちも行かない状況に陥っていました。
どちらも、岩だらけのフランスの平野に何キロも続く溝を掘っていたのです。
兵士はこの溝から機関銃や迫撃砲を打ち合いました。
塹壕にはねずみが出没して荒らし回ります。
こんな中で、泥まみれのイギリス軍兵士達は、よれよれになってしまった、
国王からのクリスマス・カードの封を切りました。
そしてそこから何百メートルと離れていないもう一つの塹壕では、
ドイツ兵がドイツ皇帝からのメッセージを読んでいたのです。
兵士達は寒さに震えながら、祖国の家族のことを思っていました。
2つの塹壕にはさまれた荒れ地は、弾孔と銃弾でばらばらになった木々で
荒涼としていました。この地域に動くものが一つでもあれば、
即座に銃口の餌食となりました。この地域はそれほど広くなく、
機関銃の発射音が途絶えた時には、敵軍の塹壕から、
弾丸を詰めるカチカチという音が聞こえるほどでした。

クリスマス・イヴの夜も更け、降り続いたみぞれもこやみになり、
気温はぐんぐん下がっていきました。
第5スコットランド銃撃隊の見張りのイギリス兵は、
中間地帯の向こうから、いつもとは違う音が聞こえるのに気がつきます。
ドイツ軍の塹壕で、誰かが歌っているのです。
「シュティレナハト・・ハイリゲナハト・・」
イギリス兵が知っている歌詞は、「サイレントナイト・・ホーリナイト・・」
「きよしこの夜」のあのメロディです。
彼はそっとメロディを口ずさみ始めます。
そして気がつくと、英語で、しかも大声でそれを歌っていたのです。
有刺鉄線の向こう側にいる敵兵との何とも奇妙な二重唱でした。

「シュティレナハト・・ハイリゲナハト・・」
「サイレントナイト・・ホーリナイト・・・」

もう一人の兵士が見張り小屋に滑り込んで来て、一緒に歌い始めます。
やがて、ドイツ側でもイギリス側でも、次々と歌声に加わる兵士が
増えていきました。砲撃戦の傷跡のすさまじいフランスの平原に、
さまざまな歌声が入り交じって流れました。
「きよしこの夜」の歌が終わると、ドイツ兵たちは
「オータンネンバウム」(もみの木)を歌い、イギリス兵はお返しに、
「ゴッド・レスト・ユー・メリー・ジェントルメン」(互いに喜び過ごせたこの日)
を歌うといった具合いでした。こうして交互に何曲も何曲も続きました。
双眼鏡を持った一人のイギリス軍兵士は、ドイツ兵達が常緑樹の枝に
ろうそくをともして土嚢の上に立てたと報告します。
クリスマスの朝が明けるとそれぞれの言葉で書かれた
「メリークリスマス」のサインが、この塹壕の両側に高々と掲げられました。
恐怖にもまさる、ある力強い力に引かれて、兵士は一人、
また一人と武器を置いて、有刺鉄線の下をくぐり、
塹壕の間の地域に出ていきました。最初はわずかな兵士達でしたが、
見る見るうちに数が増え、大勢のイギリス兵とドイツ兵が、
クリスマスの朝の光の中で顔を合わせたのです。


しかし、クリスマスの休戦もここまででした・・・・・
事態を憂慮した高官達が、ただちに兵士達を塹壕に呼び戻したのです。
そして発砲が再開されました。数時間後、イギリス軍は、
二度とこのような不祥事があってはならぬと、厳命を下します。
「我々は戦うためにいるのだ。クリスマスを祝いにきているんじゃない。」
兵士達は命令に従いました。歴史が示すように、
この戦争ではドイツ側もイギリス側も、当時の若者の世代を、
ほとんど全滅に近い状態で失いました。
しかし、わずかですが生き延びた者の心には、
前線で迎えた大戦初めの、あのクリスマスの忘れ得ぬ記憶が残りました。
すなわち、クリスマスの日の数時間、彼らにはイギリス国王でも、
ドイツ皇帝でもない、仕えるべき別の君主がいたということです。
クリスマスの奇跡を・・・その胸に刻みつけながら・・・





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